• 第30回は、澁谷智子成蹊大学教授にヤングケアラー支援の法制化について聞く
    2024/05/20
     今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。  政府はヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義。09年に成立した「子ども・若者育成支援推進法」を改正して、国や自治体が支援に努める対象にヤングケアラーを追加する考えだ。改正案は今国会に提出された。ヤングケアラー支援が法制化されるとどうなるのか。  澁谷さんは「最終的には人の問題」と話す。  「話をちゃんと聞いて、何が必要となってくるかということをほぐして、子どもたちが選択肢を持ち、頑張れる環境というものを確保できるように、(仕組みを)どう作っていくか。法制化はそうした後押しになると思う」。  澁谷さんは「学校という場を効果的に使っていくことが必要」と強調する。  「なんでもかんでも先生がやるというのは、先生の働き方改革が進む中で難しくなる。でも、学校というのは、子どもたちのことを中心にして考えられた場で、子どもにとっては“行くのが不自然にはならないところ”。子どもたちにとって、この先、生きていくときに役に立つ情報というものが教えられたり、先生たちが新しい制度について知ったりケアを実際に経験したことのある人の話を聞いたりして『子どもがこういう状況になった時にどういうサポートができるだろうか』ということを具体的に思い描くこともできる。授業の一環として、みんなで考えて調べてみることもできる。子どもを通して、アップデートされた情報が親に届く可能性もある。学校という場を上手に使っていくというのはすごく大事だと思う」と語る。   ヤングケアラーは「18歳未満」と定義されることが多かったが、今回の法案では、18歳以上の「若者」も支援対象に加えられた。  「こども家庭庁のヤングケアラーの定義などでは、18歳未満という年齢を明記しないようになってきた。ヤングケアラーの子どもたちが18歳を過ぎるとケアが終わるかと言うとそういうことはなく、18歳以降もケアは続く。また、大学生に対する調査結果なども加味すると、大人への移行期にもある程度サポートが必要ではないかという話になって、18歳未満と言わなくなった」と澁谷さん。  「一方で、ヤングケアラーのライフステージや関心事は、中高生のときと18歳を過ぎてからはちょっと違ってくる。18歳を過ぎると、親の家を出るとか、進学あるいは就職をどう考えていけばいいのか、というときの情報収集や相談や決断の後押しが必要になる。ケアを抱えながらも高等教育機関でやっていけそう、働くことと両立できそう、という見通しを持つことがとても大事。そうした相談が学校の中で完結していた中高生時代とは違う。イギリスなどでは18歳から25歳くらいまでを『ヤングアダルトケアラー』と呼んでいる」。  澁谷さんは2024年に出版された『コーダ 私たちの多様な語り』(生活書院)についても言及。「聞こえない親を持つ聞こえる子どものことを指す「コーダ」という言葉が広まる一方で、コーダのイメージが固定化してきていると感じたので、コーダには多様な生き方があり、ヤングケアラーではないコーダもいる、そうしたことを理解してもらうために本を書いた」と語った。
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  • 第29回は、澁谷智子成蹊大学教授に、なぜヤングケアラーに注目が集まっているかを聞く
    2024/05/20
     今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。  澁谷さんが「ヤングケアラー」という言葉に出会ったのは2005年の学会。自身が子育てと仕事の両立で悩んでいた時に、学校と母親のケアをどうにか両立させたいとしている10代の子どもの手記を読んで、「胸を打たれた」と澁谷さん。     「私は大人なので保育園の情報とかを自分で探すこともできたが、ヤングケアラーは情報をどこで得ればいいかもわからない。周りの子とちょっと違う状況になっているんだけれども、誰に相談すればいいかもわからない。まず彼らのことがしっかり伝わるように書いてみたいと思った」と振り返る。  「ヤングケアラーが今、これだけ注目されているのはなぜ?」という問いに対し、澁谷さんはデータなども示して解説してくれた。  「子どもの頃、『おしん』というドラマを見たが、おしんの時代は子どもが働いたり子守りをしたり、もっと言うと児童労働していることも普通にあった。でも、その後、日本が高度経済成長で豊かになっていくと、家族の中での分業が進むーー」。  「お父さんがメインで働いて、お母さんが家のこと、子どものこと、あるいは地域のことを受け持つ。子どもは自分のために時間を使えて、勉強とかいろいろな体験を広げることが望ましい、という考え方が広がる。そうした形が「標準的」な家族の姿として共有されていく」。  「そこでは子どもが介護を担ったり、子どもがきょうだいの世話をしたりするのが、以前のように共有されなくなった。子どもが介護やきょうだいの世話をすることが驚かれる時代になって、話をしても『それは大変だね』と言われるだけで、話す機会、聞いてもらう機会がなくなっていった」。  そして4枚のスライドで、澁谷さんは、子どもが家の中の仕事を受け持たざるを得なくなった状況を詳しく説明した。  澁谷さんは昨年、こども家庭庁が行ったヤングケアラー支援の効果的取り組みに関する調査事業に携わった。  「ヤングケアラーとその家族が利用してよかったサービスについて聞いたところ、“話を聞いてもらったことが精神的な面で大きかった”という答えが中高生に多かった」と澁谷さん。  「小学生くらいの子どもだと、お母さんがどうしたら楽になるかということを考えているので、“家事”といった答えが多かったが、中高生くらいになると、“母親の話を聞いてくれる”あるいは“子どもである自分の話を聞いてもらうことによって、親が『子どもが相談できている相手がいる』と思うことで安心する”、“自分自身の進学や進路を、こんなふうに考えたらどうかとか、学校に行くのは無理と思っていたがこういう方法がある、といった相談ができた”という答えが多かった」と言う。  一方で、支援に繋がったことによって、ありがたいと思う半面、「ヤングケアラー」という言葉を聞くのはすごくつらいという親の声もあったという。  澁谷さんは「子どもにケアをしてもらっているところはあるかもしれないけれど、親として子どもの話を聞いたり、子どもが望むことをしてあげたいという気持ちを持っていたりする部分もある。それが完全に『ケアを受ける側』とされてしまうのは、納得がいかないところがあるかもしれないと思う」と語る。  「子どもが親を思って、親が子どもを思ってきた家族のこれまできたあり方を、大事にしたいと思っているヤングケアラーやその親の関係が、大事にされるようなサポートのあり方があるといいなと思う」。  ヤングケアラーが取り上げられると、マスメディアではすぐに「支援をどうする」という話になることが多いが、澁谷さんは「支援と言われると『いや、大丈夫ですから』みたいな答えになってしまう。『もう少し時間あったらどうしたいの?』といったふうに、何気なく聞いてくれたときに初めて、子どもたちは『自分は何したいんだろう』みたいなことを考えるきっかけができたりする。日常的なやり取りの中で自分をほぐしていくとか整理...
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  • 第28回は、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢さんが地域包括ケアと在宅医療を検証する!
    2024/05/13
     今回のゲストは、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢(いいじま・かつや)さん。  飯島さんは2020年より東京大学高齢社会総合研究機構・機構長、および未来ビジョン研究センター教授。老年医学、老年学が専門で、特にフレイル予防を軸とした超高齢社会の総合まちづくり研究、在宅医療・介護連携推進を軸とする地域包括ケアシステムの構築などの研究で実績をあげている。  後半のテーマは「地域包括ケアシステム」。  「地域包括ケアシステムは、パッケージがあってそれを導入しせんか?というものではなくて、自分たちでその意味や、やるべき方向性を考えて作る、というのが一番重要」と飯島さん。  目の前にあるものでどうにかうまくやっていかなければならず、当然都心部の地域包括ケアと地方での包括ケアは全く異なるものになる。  「医師の連携も2011年ごろは悪かった。在宅利用をしている医師からみると、なぜ病気がここまで悪化する前に地域に委ねてくれなかったんだというクレームがあったし、病院の医師からは、地域に送り出したのに、すぐ再入院させるというクレームがあった」と振り返る。「しかし、地域包括ケアシステムも成熟してきたのか最近はそうしたクレームはほとんどなくなり、互いをパートナーと見るようになってきた」という。  飯島さんは、診る相手が病人である前に生活者だということを実感するある体験を語る。  患者の生活の場を知ることがいかにその人を診ることに役立つか。地域包括ケアの原点を見たという。  それをきっかけに東大の医学部の外生に在宅医療を体験させる実習を設けた。  病院と地域の連携というテーマで避けて通れないのが、入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)の問題。病気の症状は改善したが、入院により日常生活動作が低下、ほとんど寝たきりになってしまうような状態を指す。なぜ病院で退院後の暮らしをイメージするようなケアができないのか。  飯島さんは「10年、20年前よりは、病院のドクター陣もHADを意識し始めていると思うが、もっと生活に戻すということを中心的なテーマとして考える必要があるが、そこまではいっていない」と話す。「あまり機械的なルールを設けたくはないが、そこはある程度義務として取り組まないとダメな気もしている」。  また、病院と地域の連携も必ずしもうまくいっていない実例も多い。  飯島さんは「病院は、在宅医療という言葉は知っていても、全体の医療上のコントロールの中の重要な選択肢にはなっていないのかもしれない」とも語る。  話は「かかりつけ医」にも及び、かかりつけ医についての議論も交わされた。  外来の医師にしても在宅の医師にしても患者や家族が「医療は先生に委ねているんです」というくらいの関係になることが医療というものに携わる以上不可欠ではないかと飯島さんは見る。  そういう医師のイメージについて、飯島さんは言う。  「訪問医療ならば、その先生が来てくれることが楽しみになる。先生はいろいろな愚痴も聞いてくれる。しかし、いや、それは違うとびしっと発言もする。硬軟取り混ぜて、フランクに何でも相談できる」  そして地域連携がうまくいくためにはすべての職種が必要だが、「あえて言えば、訪問看護師とケアマネジャーはサッカーのツートップに当たる」と飯島さん。医学部の学生も医師だけでなく、多職種の方に同行。「学びは多かったようだ」と言う。  「患者、家族と医療チームが治療方針について随時話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)についても、終末期だけでなく、少なくとも50代くらいから行うべき」と飯島さん。その際は認知症になってしまったとき、資産はどう管理するかといった問題なども幅広く関係者で論じておくといい」と言う。  飯島さんはいま、多職種で使える簡単なQOL指標を作ろうとしている。  この場合、ライフには三つの訳し方があるという。  一つ目が、生命、命。  二つ目が、生活、暮らし  三つ目が、人生、生きがい    この三つのうちどれか一つではなく、どれにも配慮...
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  • 第27回は、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢さんにフレイルとその対策について聞く
    2024/05/13
    今回のゲストは、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢(いいじま・かつや)さん。  飯島さんは2020年より東京大学高齢社会総合研究機構・機構長、および未来ビジョン研究センター教授。老年医学、老年学が専門で、特にフレイル予防を軸とした超高齢社会の総合まちづくり研究、在宅医療・介護連携推進を軸とする地域包括ケアシステムの構築などの研究で実績をあげている。  東京大学高齢社会総合研究機構は2009年に設置され、東大の全学部から高齢社会に精通した研究者が集まっている。  人は高齢になると必ず「虚弱」になるが、「虚弱」という日本語には抵抗がある人も多い。そこでFrailty(フレイルティ)という英語から「フレイル」という言葉を作って、前向きに予防などについての意識を高めてもらうことにした。  フレイルになる原因を探っていくと、ほかの人との関係が希薄になってくることがきっかけになって心身の衰えが始まることがわかってきた。社会性を意識した健康管理が重要だ。  飯島さんが治療を担当しているある一人暮らしのおばあちゃんは「一人だとコンビニ弁当やスーパーの惣菜を買うことが多くなるし、料理を作っても食べきれなくなる」というが、「おばあちゃんの友人が何人か集まって食事すると、ちゃんと残さず食べ切れる」。  メタボやフレイルを予防するためには様々な工夫が必要だが、難しいのは65歳から74歳までの「前期高齢者」。メタボ対策が必要なのかフレイル対策が必要なのか迷う。  飯島さんは「悪玉コレステロールの値は下げる必要はあるが、それだからといって粗食にすればいいというものではない。筋肉が衰えて、これからの生活に支障がでてくる」という。  「薬を飲んでコレステロールの値を抑えるというのも、必ずしもお勧めできない」という飯島さんは「大事なのは、ライフスタイルの前向きなアレンジ」を勧める。努力というよりは「アレンジ」といった感覚で、体を整え、「それでも届かない部分があれば、薬にも頼ればいい」と話す。  生きがいを持っていろいろなことをしてみる。その結果、他の人にも喜ばれ、社会性も高まる。そんなフレイル対策が大切だ。  フレイルには可逆性があると飯島さんは言う。  「フレイルの兆候が出てきたら、もう歳だからなどといって諦めるのではなくすぐ対策に務めてほしいと考えているから、可逆性があると強く訴えている」と飯島さんはその狙いを明らかにする。  日本老年医学会は、日本老年歯科医学会と日本サルコペニア・フレイル学会とともに、「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」を4月1日発表した。  本ステートメントでは、新たなオーラルフレイルのチェック項⽬「Oral frailty 5-item Checklist:OF-5」を紹介した。検査機器がなくてもセルフチェックができる。OF-5の5項⽬のうち、2項⽬以上に該当する場合にはオーラルフレイルに該当する。  5項目とは以下の通り。  ・自身の歯は,何本ありますか? 20本以上は非該当  ・半年前と比べて固いものが食べにくくなりましたか?  ・お茶や汁物等でむせることがありますか?  ・口の渇きが気になりますか?  ・普段の会話で,言葉をはっきりと発音できないことがありますか? 画像 <プロフィール>飯島勝矢(いいじま・かつや)  医師、 医学博士、 東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長、 未来ビジョン研究センター 教授。1990 年東京慈恵会医科大学卒業、千葉大学医学部附属病院循環器内科入局、東京大学大学院医学系研 究科加齢医学講座 助手・同講師、米国スタンフォード大学医学部研究員を経て、2016 年より東京大学 高齢社会総合研究機構教授、2020 年より同研究機構教授・機構長、および未来ビジョン研究センター 教授。 ◆内閣府「高齢社会対策大綱の策定のための検討会」構成員 ◆内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員 ◆厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員 ◆厚生労働省「国民健康・栄養調査企画解析検討会」構成員 ◆厚生労働省「安全で安心な店舗・施設づくり...
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  • 第26回は、緩和ケア医の山崎章郎さんに、末期がんなどの患者とどう向き合うかを聞く
    2024/05/06
    今回のゲストも、緩和ケア医の山崎章郎(やまざき・ふみお)さん。  山崎さんが「病院で死ぬということ」を著したのが1990年。外科医だった経験をもとに、終末期の患者がどのような最期を迎えるかについて「物語」を描くことによって、自らの最期を患者自身が決めることができない病院医療の問題点を明らかにし、反響を呼んだ。それから34年。がん医療を取り巻く環境は大きく変わっている。  まず情報提供の面では、以前はがんの告知は一般できでなかったが、患者には人生の自己決定権があるということで、インフォームド・コンセント(informed consent)やインフォームド・チョイス(informed choice)が当たり前になってきた。  また、患者たちは一人の医師だけでなく他の医師にも自分の置かれた状況について聞くことができるセカンドオピニオンも保証されるようになった。  がん治療に関しても、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤など新しいものが多々出ており、治療法の発展は日進月歩。  また、かつては亡くなる前でも蘇生術を施したり、人工呼吸をしたりする延命至上主義だったが、いまはそれも是正されてきている。  末期がんの患者などにはACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要と言われるが、必ずしもうまくいっていないが、山崎さんは患者とのコミュニケーションも丁寧に行っているという。  在宅医療をしていても最終的に入院することになる最大の理由は、家族介護の限界。  がん患者の場合では在宅療養をやめて入院する場合、2〜3週間で亡くなるケースがほとんど。逆に言えば、看取りまでの2〜3週間、自宅で介護できる体制が築ければ、在宅での看取りも可能になる。  ケアタウン小平の場合、家にいたいと言った患者の8割は在宅で看取ることができた。  終末期にはスピリチュアルケアが重要になる。人間は人として肯定されなくなったときにスピリチュアルペインを感じる。そんな時は、その人の存在を肯定してあげるようなケアが必要。 ケアタウン小平が子育て支援に取り組んだのも、自己肯定できなくなった子どもだちが学校に行きたくないと思うようになるからだ。その意味でスピリチュアルケアは重要だ。  死んだ後についての不安はもちろんあるが、それについては在宅で看取った多くの人が「死後の世界はある」と考えていた。  山崎さんは「死後の世界はある。ないと困る」と思っていると言う。そして「死後の世界での次のビジョンも考えている」と打ち明ける。  山崎さんは2009年4月から2013年3月まで武蔵野美術大学で「死の体験授業」を行った。  まず、大切なもの20個を書いてもらう。「大切な人」「大切な物」「大切な自然環境」「大切な活動」をそれぞれ5つずつ、合計20個。  そして、静かな音楽を流しながら山崎さんがシナリオを読む。  体調が悪く、病院に行き、検査を受ける。するとがんと判明する。新しい事実がわかるたびに大切なものを1つあるいは2つ消していく。  最終的に大切なものが一つ残る。  「たいていは大切な人が残る」と山崎さん。  死ぬ過程と言うのは身近な自分の大切なものを一とつひとつ失っていく過程ということを学ぶ。  期末テストは「あなたの人生があと3ヵ月だと仮定して、大切な人に別れの手紙を書きなさい」というもの。  山崎さんは「疑似体験でも、人生にとって何が大事なのかということが見えてくると、その大切なもののために生きようと思う」と語る。
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    1 時間
  • 第25回は、緩和ケア医の山崎章郎さんに、がん共存療法への取り組みについて聞く
    2024/05/06
    今回のゲストは、緩和ケア医の山崎章郎(やまざき・ふみお)さん。  名著『病院で死ぬということ』を1990年に著した後、緩和ケア医として活躍してきた山崎章郎さん。2500人を超える終末期がん患者を看取ってきた。その山崎さんが2018年に大腸がんを宣告された。抗がん剤治療を受けるものの、強い副作用が出たため治療を中断。自身ががんになったことによりいくつかの問題に気づく。抗がん剤治療を選択しない患者さんに十分な医療保険のサポートがなく、がん治療が終了すると空白の時間があり、多くの「がん難民」が不安な日々を送っているーー。  そこで、山崎さんは「がんを消すのではなく、これ以上大きくしないようにすれば、すぐに命に関わることはない」という考えのもと、普段どおりに生活しながらできる治療、しかも高額な費用がかからず誰もが受けられる「がん共存療法」を目指す。  その経緯をまとめた「ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み」 (新潮選書)について聞く。  がん共存療法に取り組む山崎さんに対し、医療者からはプラスだけでなくマイナスの反応もあった。  批判は、個人的な体験に過ぎないのではないかというもの。そこで、治療の結果を普遍化するために臨床試験に取り組み始める。  山崎さんは「緩和ケアでは、 従来の方法だけでなく、新しいアプローチや選択肢も積極的に検討していく姿勢が大切」と訴える。  がんの症状の悪化は止められないが、それを織り込んで、大事な人生の時間に集中できる支援をしている「がん共存療法」。こうした支援は緩和ケアそのものだと山崎さんは言う。  臨床試験は既存の治療法を組み合わせたものであり、新薬の治験とは異なる。  ケアタウン小平クリニックは、山崎さんの体調のこともあり、2022年6月1日より、医療法人社団悠翔会に継承され、山崎さんは同クリニック名誉院長として、訪問診療に従事している。その経緯についても聞いた。  悠翔会の佐々木淳医師とは緩和ケアについて思いを共有できたため、クリニックを託すことにしたという。 画像 <プロフィール>山崎章郎(やまざき・ふみお) 1947年、福島県出身。緩和ケア医。1975年千葉大学医学部卒業、同大学病院第一外科、国保八日市場(現・匝瑳)市民病院消化器科医長を経て、1991年聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長。1997年~2022年3月聖ヨハネホスピスケア研究所所長を兼任。2005年在宅診療専門診療所(現・在宅療養支援診療所)ケアタウン小平クリニックを開設したが体調のこともあり、2022年6月1日より、同クリニックは医療法人社団悠翔会に継承され、2022年9月現在は同クリニック名誉院長として、非常勤で訪問診療に従事している。認定NPO法人コミュニティケアリンク東京・理事長。著書に『病院で死ぬということ』(主婦の友社、文春文庫)、『続・病院で死ぬということ』(同)、『家で死ぬということ』(海竜社)、『「在宅ホスピス」という仕組み』(新潮選書)など。
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  • 第24回は、在宅医の佐々木淳さんに、在宅医療を体験して感じた疑問を聞く
    2024/02/23
     今回のゲストは、在宅医療専門クリニックを運営する医療法人社団悠翔会の理事長、佐々木淳さん。  佐々木さんは2015年に医療・介護多職種連携のための学びのプラットフォーム「在宅医療カレッジ」をスタート。認知症ケア、高齢者ケア、地域共生社会の学びなど幅広い分野でセミナーを実施している。その内容をまとめた「在宅医療カレッジ・地域共生社会を支える多職種の学び21講」(医学書院)は、超高齢社会における医療・介護の実践的知識を学ぶための必読書になっている。  今回のインタビューは、訪問医や訪問看護師らの協力で在宅で義理の母親を看取ったキャスターの相川が、実際に在宅医療に接して感じた思い、疑問などを、この分野の第一人者である佐々木さんにぶつける形で進めた。 ーー痰の吸引や胃ろうからの栄養補給など、訪問看護師に頼ればいいと甘く考えていた。実際は退院直後の医療保険で訪問看護師に来てもらえる時でも1日2回が限度。夜中には妻と交代で寝ずの番をして、私たちで痰の吸引を行った。自宅に戻ったのでひ孫にも会えるなど、豊かな時間は過ごせたが、家族も相当ケアに絡まなければならず大変だった。 佐々木 在宅医療は大変な側面もあるが、栄養や水分摂取など工夫次第で楽にする方法もある。 ーー在宅医療をどのタイミングで始めるべきだったのか。リハビリ病院を経由したが、リハビリはほとんどできない状況になってしまっていたので、急性期病院から直接在宅というルートもあったのかと思う。 佐々木 実は急性期から自宅に直接帰るというルートは、今普通に存在する。「この状態で家では面倒をみられないだろう」と思うが、家に帰ると、環境の力で、病院で騒いでたおばあちゃんが普通のおばあちゃんに戻る。 ーー回復の見込みがない段階での延命治療はしないと決めていたが、酸素飽和度が下がり、酸素吸入の必要があった。在宅クリニックの当直医の到着が時間がかかるため救急車を呼び、救急隊に酸素吸入を行ってもらった。在宅医療で救急対応は十分? 佐々木 在宅医療には、5分〜10分で来るという機能は残念ながらないので、日頃からの備えをやっておくというのがすごく重要になる。 ーー医師も働き方改革が必要と言われる中、24時間診てくれとは言わないが、さきほどまで診察に来ていて、出してくれた薬をどうするかみたいな質問さえケータイで答えてくれず、当直医任せだった。家族としては信頼できなかった。 佐々木 やっぱりふだん診てくれる先生が最後まで診るというのが見てくれるのが、患者さんにとっては一番。ですが、1人の先生がずっと24時間対応し続ける、それを何十年も続けるというのはやはり難しい。お医者さんにとっても持続可能で、家族や患者さんにとっても安心な形でなんだろうなって思った。  一つは先生たちも休みが必要。そういう日だけは僕らのようなクリニックのお医者さんがバックアップするような仕組みがあれば、先生も頑張れるときは頑張る。  二つ目の方法としては、我々のような僕たちも大規模在宅クリニックですけが、できるだけ地域に密着しようというふうに考えて、今例えば東京だと、案件に3キロのエリアしか我々カバーしない。 そうだとしても、夜知らない先生が来て、全然話が通じないというのは、やはり困る。どうすればいいのかーー。 ここで必要なのは二つあって、一つはやっぱり主治医の先生が、患者さんご家族と信頼関係を築き、何でも相談できるっていう関係性を作ること。  確かに主治医は夜は対応できないかもしれないけれども、その代わり患者さんたちが夜、不安におののくことがないように、昼間のうちに診療を完結させる。  在宅という、お医者さん、看護師さんが普通はいない環境であっても、安心感を高めるための工夫はできるし、そもそも医者というものは単に病気を治療しに行ってるだけではなくて、患者、家族の安心を支えに行ってる、納得できる生き方を一緒に考えるために患者さんの家に行く。 ーー地域包括医療病棟というものが新設されるそうですが。 佐々木 急性期病院で治療する力...
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  • 第23回は、楊井 人文さんに、デマに踊らされない方法について聞く
    2023/12/20
    今回のゲストも、ファクトチェックを自ら手掛けるとともに、ファクトチェックの普及・推進にも務めてきた楊井人文(やない・ひとふみ)さん。   私たちがデマや不正確なニュースなどにだまされないためにはどうすればいいのか。 楊井さんは「SNSの時代になって、昔は影響力を持たなかった本無名な人たちのつぶやきさえ、一瞬で世界に広がるようになった。新しい技術によって、こういう現象が生まれた」とその背景を説明した上で、「不安だとか、憤りだとか、敵対心とか、そういったものが原動力になって、そういった情報が広がりやすい。これは昔も今も変わらない」と話す。  「人間の不安とか、怒りの感情を煽るようなものには、特に注意が必要」だ。  ネット上に溢れるデマや怪しい情報をファクトチェックで防ぐことはできるのか?  楊井さんは「社会的な影響力、特に負の影響を及ぼす恐れの高いもは優先的にピックアップしてチェックするしかないが、現実にはファクトチェック団体、ファクトチェッカーのリソースは限られている。そして、難しいものよりも簡単、比較的やりやすいものを選んでチェックする傾向もある」と限界を認める。  怪しい情報には近づかない、拡散しないということを各人が肝に銘ずるべきという意見もあるが、楊井さんは「人間はコミュニケーションが大好き。SNSのビジネスモデルには情報を拡散させる工夫も織り込まれている。SNSのビジネスモデルはそれをいかに拡散させるかで、成田ビジネスとして成り立たせた面があって、安易に書き込みを信じるなと言っても、人は自分が信じている人、親しみを持っている人の情報は、信じてしまうもの」と「初めから疑ってかかる」ことの限界を感じている。  一方で楊井さんは「ただ拡散しないという消極的な態度もだけではなくて、ちょっとこれは事実と違うのではないですかと積極的にいうことも必要」という。  旧Twitter(X)はコミュニティノートというツールも用意している。「メディアやファクトチェック団体への情報提供も一つの方法だと思う」(楊井さん)。  しかし、異議を唱えたりすると攻撃される心配はないのか? 「Xのコミュニティノートは、指摘した人が攻撃を受けないように、ノートのメンバーは匿名で怪しいツイートに対して、異議を申し立てられる」(楊井さん)。  コミュニティノートに書かれたことに意義を唱えるノートもあり、匿名同士の泥仕合になることも。しかし、楊井さんは「冷静に議論を行うのであれば、大事な場」とみる。  楊井さんは「既存の伝統的なメディアの役割は大きい」と話す。「テレビや新聞も疑わしいところもあるが、情報のベースにはなる。そこでリテラシーを身につけた上で、ネット情報の海に入らないと、溺れてしまう。伝統のメディアはもっと信頼され、重要なのだと気づいてもらうべきで、だからこそ伝統メディアはきちんと情報を伝えることが必要」と伝統メディアの役割を強調する。  「ジャーナリズムをもっと強くしなければならない、というのが大元にある。ジャーナリズムがきちんと機能するかどうかで、社会は大きく変わる、それだけ責任も大きい」「特にコロナ禍では、全体主義的な空気に包まれ、メディアや専門家の言説に社会が支配され、検証ジャーナリズムがあまりにも機能していないと感じることが多かった。言説中心型ファクトチェックの枠をを超えて、独自の調査、データ分析、法的視点からの検証にもとりくんできた」(楊井さん)。  「コロナ禍では、メディアもファクトチェックも機能不全に陥っていた」と楊井さんはみている。「いろいろなものを、モグラたたきのように調べてはいたが、本質的なところを、きちんと検証できていたのか疑問」という。 そんな中で、個別の言説・情報に焦点を当ててその内容が正確かどうかを検証する「言説中心型ファクトチェック」が現在の主流だが、議論のある現実の問題にフォーカスを当てて人々の理解に役立つ事実を検証する「問題中心型ファクトチェック」も提唱されている。「まだやっているところはあまりないが」...
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