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第36回は、東大名誉教授の樋口範雄さんに聞く(下)変化する社会と法制度のギャップ

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 今回のゲストは、武蔵野大学法学部特任教授、東京大学名誉教授の樋口範雄(ひぐち・のりお)さん.。 2006年の富山県射水市民病院事件をきっかけに、終末期医療における人工呼吸器停止が全国的な問題となった。 同病院で数年間に7人の患者の人工呼吸器が外されたことが発覚し、医師が捜査対象となった。日本では終末期医療中止で医師が裁判になったのは2件のみで、最高裁は適法な要件を満たせば治療中止は可能と判断。厚生労働大臣が医師一人の判断を避けるためのガイドライン策定の必要性を表明。樋口さんも検討会に関与し、誰もが常識的に納得できるルール作りに参加した。 終末期医療のガイドラインは次の三本柱で構成される。① 医師一人では決めず、チームで終末期医療の判断を行うことを原則とした②本人の意思を最も重要視し、本人の意思が不明な場合は家族等の意思で推定することを認めた③最期まで苦しまないよう緩和ケアを充実させることを国の責務として明記。 2018年に内容を充実させ、終末期に至るまでの時期についてもガイドラインを拡張。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の概念を導入し、事前の医療・介護計画の重要性を強調した。 ACPは医療・介護分野に限定されているが、人生にはより幅広い準備が必要であることを指摘。 東京大学高齢社会総合研究機構が中心となり、ALPアドバイザー制度の検討を開始。単身高齢者の増加に対応し、人生全般にわたる相談ができる仕組みの構築を目指している。 本人の意思を尊重する原則はあるものの、日本では家族の意見も無視できない文化的背景がある。 法律上は「家族等」となっているが、実際の運用では血縁関係のある家族が重視される傾向がある。  樋口さんの入院経験では、まずキーパーソンを指定することが求められた。 キーパーソンは実質的に医療代理人の役割を果たすが、家族でなくても問題ないはずである。成年後見人は医療代理人にはなれないという制度上の矛盾が存在。親友や同性パートナー、内縁関係者など、家族以外でも本人をよく知る人がいる。彼らにも本人の意思を聞くことは構わないと樋口さんは考える。 アメリカでは医療代理人制度があり、家族でなくても代理人になることが可能、  樋口さんは銀行口座整理の際に、本人でなければ手続きできない不便さを感じた。 高齢者にとって身体的負担が大きい各種手続きで本人の出頭が求められる現状は改善し、代理人を認めてほしいという。 民法には代理制度の規定があるが、実際には誰も信用しない状況。それならば、イギリスやアメリカにある持続的代理権法(元気な時も判断能力を失った時も継続して機能する代理制度)のような、簡単に代理人を選べる制度が必要と樋口さんは言う。 ケアマネジャーが本来業務以外のアンペイドワーク、シャドウワークを多数依頼される現状への対策についても聞いた。アンペイドワーク、シャドウワークとは、 マイナンバーカード手続き、公共料金振込、買い物、救急車同乗などで、特に単身高齢者から、多岐にわたる依頼がケアマネジャーにある。単身高齢者にとってケアマネジャーが唯一の頼りとなっている存在だからだ。ケアマネの業務拡大で対応するか代理制度への橋渡しかで議論が分かれている。樋口さんは、 記録の透明化と適切な有償化により、必要なサービスを提供できる仕組みづくりが重要と説く。  民間で行われている身元保証サービス(高齢者等終身サポートとも言う)についても聞いた。 入院や施設入所時の身元保証要求は本来必要ないが、慣行として続いている。身元保証法は入院・施設入所のために作られた法律ではないにも関わらず流用されている。高齢者等終身サポート事業者による高額なサービス(入会金100万円超のところが多い)が存在する。法律も所管官庁もない状態でガイドラインのみの規制となっている。家族がいれば無償でできる作業に高額な費用がかかる現状だが、どうすればいいのか。 樋口さんは、保険を活用した新しい仕組みができないかと提案する。事故が起きた時に担当者のサポートが得られる...
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