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第35回は、東大名誉教授の樋口範雄さんに聞く(上)成年後見制度の限界と新たな高齢者支援の可能性

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 今回のゲストは、武蔵野大学法学部特任教授、東京大学名誉教授の樋口範雄(ひぐち・のりお)さん.。

 日本は世界でも類を見ない超高齢社会を迎えている。高齢化率が3割を超え、認知症患者数は2025年には700万人に達すると予測される中、現行の法制度が高齢者の実情に適合していない現実が浮き彫りになっている。東京大学名誉教授の樋口範雄さんは、高齢者の問題は本質的に法律問題でもあるにも関わらず、法も法律家もそれに対処できていないと指摘する。

 人生100年時代において、従来の「人生50年」という前提で設計された制度では対応しきれない課題が山積している。デジタル化、グローバル化が進む中で、高齢者は予想できない事態に直面することが増えており、不安と心配で暮らすのではなく、新しい事態に前向きに対処していく仕組みが求められている。

 樋口さんが武蔵野大学で企画した「古希式」は、こうした課題への一つの回答として注目される。70歳を迎えた高齢者と若い学生が一緒になって高齢者の問題を学び、話し合う場として設計されたこのイベントは、高齢者になる準備段階での学習機会の重要性を示している。樋口恵子さんが提唱する「第2の義務教育」の概念は、余生を悠々自適に過ごすという従来の発想から脱却し、リスキリングを含めた積極的な学び直しの必要性を訴えている。

 2000年に介護保険制度と同時に導入された成年後見制度は、25年が経過した現在でも深刻な課題を抱えている。制度の利用者は約25万人にとどまる一方で、認知症患者やMCI(軽度認知障害)の人を含めると、潜在的な対象者は1000万人に上るとの推計もある。この圧倒的な乖離は、制度設計そのものに根本的な問題があることを示している。

 政府は「利用促進」を掲げているが、仮に500万人が制度を必要としているとすれば、残り475万人に後見人をつけるという現実的でない目標を追いかけていることになる。これまで25年かけて25万人の利用者を獲得したペースを考えると、必要な人すべてに後見人をつけることは物理的に不可能に近い。

 さらに深刻なのは、世界的に成年後見制度への評価が厳しくなっていることである。多くの国で制度の廃止や根本的な見直しが議論される中、日本だけが利用促進という方向性を変えられずにいる。国連の障害者権利条約は、認知症の人を含む障害者の自己決定支援を重視し、後見人が代行して判断決定をする制度の廃止を勧告している。2022年の日本に対する審査報告でも、このような制度の廃止が明確に求められているにも関わらず、日本の対応は小手先の改善にとどまっている。

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