エピソード

  • ボイスドラマ「臥龍の記憶」
    2025/08/12
    臥龍桜に誓ったのは、たった一度の祝言でした。昭和19年、戦時中の飛騨高山・一之宮。臥龍桜の下で少女ミオリと青年カズヤは、許嫁として再会します。自由も恋も、そして未来もままならない時代の中で、二人が交わしたひとつの約束。それは“この桜が咲く日まで、生きていてほしい”という切なる願いでした。臥龍桜のつぼみが膨らむころ、カズヤに届いた赤紙。出征を前にして、二人が選んだ道とはーー。飛騨の記憶と、桜の下で交わされた言葉を紡ぐ、時を超えたラブストーリーです!【ペルソナ】※物語の時代は昭和19年〜22年・ミオリ(17歳)=飛騨一ノ宮駅の東側にある実家で育った。一之宮尋常高等小学校を卒業後、高山の女学校に通う女学生。勉学に励み、将来は子どもたちに教える教師になることを夢見ている。真面目で一本気な性格だが、感受性豊かで、心の奥には繊細さも持ち合わせている。親が決めた許嫁であるカズヤとの関係に反発しつつも、どこか彼の不器用な優しさに気づいている(CV=小椋美織)・カズヤ(19歳)=飛騨の林業を営む家に生まれた。家は飛騨一ノ宮駅の西側。幼い頃から木に親しみ、その温もりと力強さに魅せられ、いずれは家業を継ごうとは思うが、今は家具職人(匠)になりたいと思っている。1944年現在は高山市の家具工房で修行の身。寡黙だが、内に秘めた情熱と職人としての誇りを持つ。不器用ながらも、ミオリのことをいつも気にかけている(CV=日比野正裕)【設定】物語はすべて臥龍桜の下。定点描写で移りゆく戦況と揺れ動く2人の心を綴っていきます【資料/飛騨一ノ宮観光協会】http://hidamiya.com/spot/spot01<第1幕:1944年3月5日/臥龍桜の下>◾️SE:春の小鳥のさえずり「冗談じゃないわ!どうして私がカズヤと祝言(しゅうげん)あげなきゃいけないのよ!」「親が決めたことだからしょうがないだろ。」「情けないわね!あんた、それでも日本男子?しっかりしなさい!」「日本男子は関係ないだろうに」「そうね、カズヤには関係ないかも。だけど私には大あり」「どういうことだ、ミオリ?」「カズヤにはわかんないでしょうね。でも私はね、花も恥じらう十七歳。一之宮尋常高等小学校を卒業して、高山の女学校に通う学生なのよ」「だからなんなんだ」「あー、いや、ちょっと待って。そういや、あなただって、林業を捨てて高山の工房で家具を作ってるじゃない」「捨ててなどないぞ。オレは別に父母の仕事を卑(いや)しめてはいない。ただ家具作りが・・」「好きだからでしょ。昔から手先が器用だったし」「そ、そうだけど」「こんなふたりが。戦時中だというのにこんな好き勝手やってる男女がよ。親が決めた許嫁と祝言なんて、まあなんて前時代的な話だこと。いま何年だと思ってるの?昭和ももう19年よ。昭和19年。明治時代じゃないんだから」「ちょっと言い過ぎじゃないか」「なんでよ」「親が言っていることの意味も考えねばならんだろう。戦局はますます激化していくこのご時世で」「はあ?」「厚生省が『結婚十訓』を発表したではないか」「それがどうしたの?」「『結婚十訓』第十条『産めよ殖(ふや)せよ国のため』」「ばかばかしい」「ばかばかしい?非国民かオマエは」「非国民でけっこう」「なに」「だいたいカズヤと夫婦(めおと)になるなんて無理無理」「ふん。こっちだって願い下げだ」「あら。初めて意見が合ったじゃない」「た、たしかにな」「あゝせいせいした」「なあ、ミオリ。オマエ、ひょっとして・・・」「なによ」「いや、別に・・」「言いなさいよ」「ああ。ほかにいい人がいるのか・・」「え・・」「やっぱりそうか・・」「な、なによ。悪い?お慕いする方くらい、いたっていいでしょ」「別にかまわんけど。オレだって・・・」「へえ〜、カズヤにもいるんだ。そんな相手が」「馬鹿にするな。こう見えてもモテるのだぞ」※当時からあった言葉です「馬鹿になんてしてない。だってカズヤ、見た目だけはいいんだし」「だけ、って・・失礼千万だな」「じゃ、いいじゃない・・」「うむ・・」「ねえ、ようく見てみなさい。あそこ。飛騨一ノ...
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    19 分
  • 『桃花流水〜夢に咲く花』
    2025/08/07
    飛騨高山・国府町を舞台にした、春と初恋の物語。ヒダテン!ボイスドラマ第17弾『桃花流水〜夢に咲く花』がついに公開!春のピーチロードで出会ったのは、東京からやってきた農業大学の青年・ショウタ。桃の花に導かれるように、彼とももは少しずつ距離を縮めていきます。しかし彼には、ある“秘密”があって――国府町の自然、伝承、そして飛騨桃の魅力をたっぷり詰め込んだ、甘く切ない春の出会いと別れの物語。公式サイト&Spotify・Amazon・Apple Podcastなど各種配信サービスにて公開中!小説として「小説家になろう」でも全文公開しています。(CV:高松志帆)【ストーリー】[シーン1:4月/満開の桃の花(ピーチロード)】◾️SE:平地の小鳥/高山線の通りすぎる音〜自転車の急ブレーキの音「大丈夫ですか!?」「あ、はい、大丈夫です!」夕暮れが近いピーチロード。満開の桃の花の下。突然現れた彼は、道の脇で、桃の木にもたれかかるように倒れていた。「子狐を避けようとしたら転倒しちゃって」「子狐・・・?」「まさか、こんなところに子狐なんて・・」「別に不思議じゃないわ」「え・・」「安国寺のきつね小僧って民話、知らないの?」「なんだい、それ?」「あなた・・・高山の人じゃないのね」「うん、そうだよ」彼はお尻についた土を振り払って、よいしょっと立ち上がる。Eバイクのスタンドも立て直して。私も、乗っていたEバイクを道の端っこに停める。「東京からきたんだ」「へえ〜。どこに泊まってるの?古川?市街地?」「宇津江四十八滝」「キャンプ場?アウトドア派なんだねー」「きみはここ、国府の人?」「まあね。私、もも。よろしくね」「もも?いい名前!よろしく。僕はショウタ」「ショウタこそ、いい名前。私、ここが高山市になる前から、ずうっと国府に住んでるの」「そうなんだ。いいところだね」「当然でしょ。見ての通り」「桜と桃の花が一緒に見られるなんて」「そう。この季節だけの特権。いいときに来たわね」「本当にきれいだ」「やだ。照れるじゃない」「って桃の花のことだけど・・」「あ、そうか・・・桜野公園は行った?」「うん、宮川(みやがわ)沿いに通ってきたけど、明るいうちに桃の花が見たくて」「どうして?」「桜より桃の花の方が好きなんだ」「へえ〜、変わってるわね」「春の光をあつめて、淡く、やわらかな色をひらく」「ほう〜」「風が花びらを撫でるたびに、甘い香りが漂う」(ゴクリ)※唾を飲み込む「ちょっとちょっと、ショウタって詩人なの?」「いや違うけど、それほど好きってことさ」「好き・・・?」「あ、ごめん。ちょっとカッコつけすぎちゃった」「ううん。よかったわ。ねえ、もっと、ショウタのこと教えて」木陰を選んで、また腰をおろす彼。私も横に並んで、ピーチロードの端っこに座る。風になびく飛騨桃の花びら。暮れ行く前の春の日差しが、私たちの顔に花の影を落としていた。彼は東京の農業大学へ通う一年生なんだって。でも父親は農業の道へ進むことに猛反対。ときどき喧嘩しては家出しているらしい。国府は今回が初めて。でも、どうして高山?どうして国府?「ちょっとだけ、縁があるんだ」「どんな縁?」「ん〜、ナイショ」「もう〜」「さぁて、暗くなる前に出発しようかな、桜も見たいし」「あー、浮気するんだぁ」「なに言ってんだか」「キャンプ用品とか荷物は?」「レンタカーの中。駅前の駐車場だよ」「用意周到ね」「ソロキャンプは慣れてるから」そう言って笑う彼の口元から八重歯が覗く。よく見ると、キュートな感じ・・・かな。「きみの家はこのへん?」「ううん、うちは国府町宇津江」「それって・・・」「そう、ショウタがこれから行くところ」「宇津江四十八滝に住んでるの?」「なわけないでしょ。自然公園の近くよ」「じゃあ送るよ、一緒にいこう」「いいわ」ショウタは笑顔で親指を立てる。一面を淡いピンクに染めた、飛騨桃たちのピーチロード。Eバイクで並んで走る私たちの目の前を、花びらが静かに舞い降りる。後方から子狐の鳴き声が聞こえたような気がした。[シーン2:5〜6月/クリンソウ...
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    15 分
  • ボイスドラマ「アルテミスに出会った日」
    2025/07/31
    岐阜県高山市朝日町にある薬膳カフェ「よもぎ」を舞台に、漢方薬剤師・朝日よもぎの幼少期から現在までを描いた、感動のボイスドラマが完成しました。病弱だった少女・よもぎが、朝日町の自然と「義理の祖母」との出会いを通じて“薬草の力”に目覚め、自らの進むべき道を見つけていく姿を、四季折々の風景とともに丁寧に綴ります。「飛騨は薬草の宝箱」祖母の言葉の意味を、あなたもきっと感じるはずです。出演:蓬坂えりか/坂田月菜/日比野正裕【資料/アルテミス】https://kimini.online/blog/archives/79968<シーン1:現在/よもぎ28歳/カフェよもぎ>◾️SE:カフェのガヤ/小鳥のさえずり「先生、最近朝起きるのがだるくてなあ。また薬をだしてもらえんやろうか」「あら...マサさん、大丈夫?辛いねぇ。奥でお話、聞きましょうね。」「ああ、わかったわかった」カフェ「よもぎ」の奥。厨房の前の小さなカウンセリングルームで常連客の相談を聞く。「じゃあ、漢方作ってくるわね。クロモジ茶飲みながら、待っててね。」「ああ、ありがとなぁ。」カウンセリングルームの横。嬉しそうに微笑みながらおばあちゃんが通りすぎていく。パパのおかあさん。戸籍上は”義理のおばあちゃん”だけど、私にとっては、薬草の先生。”朝日町の主(ぬし)”といってもいいくらい。ふふ。<シーン2:26年前:よもぎ2歳の夏/シェアハウス周辺の森にて>◾️SE:小鳥のさえずり初めておばあちゃんと会ったのは25年前。2歳のときだった。ママに連れられて朝日町に来たけれど、行くとこ、見るとこ、知らないとこばかり。そもそも人見知りで、今で言うコミュ症の塊。しかも病弱で、よく熱を出して寝込んでた。ママのかえでも、いろいろあって精神的にキツいときだったし。東京から着の身着のままで連れてこられて、ゲームも持ってこられなかったんだ。ママは住むところを決めたり、なんだかんだで毎日家にいない。家、といってもシェアハウスだから、ひとり静かに過ごせるわけじゃない。だから、よくお庭で、虫と遊んでた。「痒いのかい?」「え・・」声をかけてきたのは、知らないおばあちゃん。私は手のひらが痒くてボリボリかいていた。「毛虫にさわったんかいな」「あ・・」そういえば、さっき緑色の葉っぱをちぎったとき。葉の上でモゾモゾしてる小さな毛虫にさわっちゃったかも。「ほうか、ほうか。ちょっと待っとれよ」おばあちゃんは慣れた感じで、近くに生えていたよもぎの葉をちぎる。葉っぱを手のひらで揉むと、緑色の汁が出てきた。「この汁をちょんちょんってつけてみ。痒みがおさまるから」なんだか信じられなかったけど、言う通りにした。変わったおばあちゃん。「もうかかん方がええで。ちょこっと我慢しい」私は黙ってうなづく・おばあちゃんは、ほかにもいろんなこと教えてくれた。庭の隅に生えている低い木から、葉っぱと小枝を少しだけ摘み取って「クロモジっていうんや」地面に落ちたセミを拾い、クロモジの葉っぱの上に置く。でも・・・やっぱ、弱ってるから動かない。・・・と思ってたら、そのうちに羽を動かして、弱々しく飛んでいった。うわあ。ぽかんと口をあけている私におばあちゃんがにっこり微笑む。「もう痒くないやろ」あ・・ホントだ・・・治ってる。痒くない。嬉しそうな顔をする私を見て、おばあちゃんがまたニンマリ。その日から、無口な少女と、物知りなおばあちゃんの交流が始まった。おばあちゃん、って言っても、今から思えば全然若かったと思う。だって、いつも車を運転して、朝日町のいろんなとこへ薬草摘みに連れてってくれたもん。鈴蘭高原でヨモギやスギナ、ワレモコウ。水芭蕉は終わってたけど、美女高原でドクダミやオオバコ。カクレハ高原でワラビやゼンマイ、ウド、トウキ。おばあちゃん、きっとひとりぼっちの私を気にかけて誘ってくれたんだろなあ。おばあちゃん、『飛騨は薬草の宝箱』って言ってたけど、ホントにそう。薬草がみんなの生活に根付いてるんだ。もっともっと薬草のこと知りたいな。<シーン3:22年前:よもぎ6歳の春/朝日の森>◾️SE:森の中/...
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    19 分
  • ボイスドラマ「最後の鉄道員(ぽっぽや)/後編」
    2025/07/24
    「最後の鉄道員(ぽっぽや)」<後編>は、声優を目指す少女ルナの視点。駅長ミオリとの出会いは、ルナの人生に何をもたらしたのか?そして、無人駅となる飛騨一ノ宮駅の最後の日、ルナがミオリに贈るサプライズとは…?涙なしには聴けない感動のラスト!【ペルソナ】・ミオリ(51歳-54歳)=飛驒一ノ宮駅の駅長(CV=小椋美織)・ルナ(15歳-18歳)=(CV=坂田月菜)・マサヒロ(59歳)=久々野駅の駅長(CV=日比野正裕)<シーン1:1982年3月/駅長との出会い>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅到着アナウンス(月菜ちゃん読んで)/小鳥のさえずり「まもなく飛騨一ノ宮、飛騨一ノ宮です」1982年3月。あたしは久々野から、休みの日しか乗ったことのない国鉄に乗る。久々野の次は飛騨一ノ宮。7分で到着する小さな駅。飛騨一ノ宮といえば、駅のとこにある臥龍桜か。臥龍桜を見にいったのは、小さい頃だったけどこの時期、まだ開花の気配すらない。春の高山祭・山王祭(さんのうまつり)まであと1か月。高校に合格したら、今年は友達誘って行ってみよう。あ、でも4月に入学してそんなすぐ友達ってできるのかなあ。不安な気持ちがどんどん大きくなる。今日は高校の合格発表。パパもママもりんごの剪定作業でバタバタだから発表を見にいくのはあたし1人。大丈夫、大丈夫、なんて軽く言っちゃったけど、やっぱり不安、ドキドキする。そういえば・・・気がつくと、国鉄を途中下車して飛騨一宮駅のホームに立っていた。このタイミングで神頼みなんてありえないかな・・・でも、世界屈指の聖なる場所だから。「お嬢さん」「え」突然声をかけられてうろたえる。国鉄の制服をきたお姉さん。【以下前回原稿まま】「突然ごめんなさい。飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」「あ・・はい」「なにか困りごと?」「えっと・・・」「よかったら、話してみて。急行のりくらの通過までまだ30分あるから」「はい・・あの・・」「うん」「高山までの切符なんですけど・・・一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」「降りることは問題ないわよ。でも、もう一回乗る時は・・」「大丈夫です。もう一度切符を買うから」「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」「はい・・・」「どこか行きたいとこがあるの?」「飛騨一之宮水無神社」「水無神社?」「・・今日高校の合格発表なんです」「まあ」「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」「おかしくないわ。シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」「シュレ・・ディンガー・・?」「あ、失礼。物理の実験よ。夫が大学で物理の講師だったから」「すごい。そんなすごい人がいるんですね」「うん、もういないけど。この世には」「あ・・・ごめんなさい!」「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・で、水無神社に参拝してから合格発表を見にいくってことね」「はい!」「よし、じゃあがんばって。跨線橋渡って駅前出たらまっすぐよ」「ありがとうございます!あ、あたし、ルナです!行ってきます!」「絶対大丈夫だから!ファイト!」なんか・・・ホントに大丈夫だ、って気がしてきた。素敵な駅長さん・・・家を出るときは、パパやママとも顔合わさなかったし・・りんごの剪定で忙しいからしょんないよね。あ、合格発表見たら、図書館で調べなきゃ。シュレ・・ディンガーの猫だっけ・・?なんか、かわゆいし。<シーン2:1982年4月/入学式>◾️SE:国道41号の雑踏/自転車で走る音ちょっとまだ寒いけど、自転車快適〜!車の交通量がチョー多い国道41号。宮峠を越えたら、飛騨一ノ宮まで下り坂。家を30分前に出れば、楽勝だわ。あ、でも、帰りはこれが上り坂になるのか・・・う〜ん。ま、考えないようにしとこ。よっし。町が見えてきたから、あと少しだわ。10分前には着けそう。ラッキー。合格発表から一ヶ月。あたしはめでたく高校に入学した。駅長さんと猫に感謝しなきゃ。猫?もっちろん、シュレ、ディンガーの猫よ。ちゃあんと調べたんだから。猫は生きてる!飛騨一ノ宮駅から通おうって決めたのもあの...
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    22 分
  • ボイスドラマ「最後の鉄道員(ぽっぽや)/前編」
    2025/07/17
    雪舞う飛騨一ノ宮駅に、ただひとり駅を守り続ける女性がいた。彼女の名はミオリ。1970年冬、愛する夫と娘を事故で失い、深い悲しみを抱えながらも、駅長として生きる道を選んだ。時は流れ1982年春。無人のホームで不安げに立ち尽くす一人の少女、ルナと出会う。高校の合格発表を前に水無神社へ向かうというルナと、そっと寄り添うミオリ。それは、まるで生き写しの娘との再会を思わせる、温かい交流の始まりだった。東京での声優という夢を追いかけるルナと、飛騨一ノ宮駅の無人化、そして自身の早期退職を目前に控えるミオリ。残された時間はあとわずか。それぞれが抱える想いを胸に、やがて来る別れの日を、二人はどのように迎えるのだろうか。ミオリとルナ、二人の視点から描かれる前編・後編。失われたもの、そして与えられたもの。飛騨一ノ宮駅と臥龍桜に見守られた、時代を超えた心温まる絆の物語を、どうぞお聴きください。【ペルソナ】・ミオリ(39歳-51歳-54歳)=飛驒一ノ宮駅の駅長(CV=小椋美織)・ルナ(15歳-18歳)=(CV=坂田月菜)・マサヒロ(59歳)=久々野駅の駅長(CV=日比野正裕)<シーン1:1970年/それでも駅に立つ>◾️SE:吹雪の音/走り込んでくる友人の足音「ミオリさん!ご主人と娘さんが!」「えっ」「事故で病院に!早く!急いで!」「そんな・・・」「なにやってんだ!」「もう・・すぐ・・・最終列車が・・・」「なに言ってんだよ!」1970年冬。夫と娘がこの世を去った。2人の最後にも立ち会わず、私は駅のホームに立つ。吹雪が舞い踊る臥龍桜。大木は、まるで私を責めるように大きな枝を揺らしていた。私の名前はミオリ。10年前からここ飛驒一ノ宮駅の駅長を務めている。国鉄高山本線。「本線」とは言ってもローカル駅の飛騨一ノ宮。たった1人の鉄道員(ぽっぽや)が駅長の私だ。1人だけでも駅長の仕事は多岐に渡る。駅務の統括。出札・改札業務。取扱貨物の管理。ホームや線路の点検・清掃。除雪作業。地域との交流。1日の列車の停車本数が30本にも満たないローカル駅とはいえ、不器用な私は毎日走り回っていた。公共交通機関というインフラの根幹。鉄道員は決して鉄道の運行を止めることは許されない。それが、飛騨一ノ宮駅駅長である私の使命。と思っていた。◾️SE:高山線ローカル列車の警笛<シーン2:1982年3月/少女との出会い>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅から発車する音/小鳥のさえずり「異常なし!発車!」1982年春。いつものように高山方面へ向かう普通列車を見送る。春とは名ばかりの肌寒い3月。臥龍桜の蕾はまだまだ硬く、静かに眠っている。誰もいないと思ってホームへ目を向けると、1人の少女が不安気な表情で立っている。あれは・・久々野の中学校の制服。娘も生きてたらあのくらいね。どうしたのかしら?なにか思い詰めてるみたいな顔をして・・・まさかね。一応、声をかけてみよう。「お嬢さん」「え」「突然ごめんなさい。飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」「あ・・はい」「なにか困りごと?」「えっと・・・」「よかったら、話してみて。急行のりくらの通過までまだ30分あるから」「はい・・あの・・」「うん」「高山までの切符なんですけど・・・一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」「降りることは問題ないわよ。でも、もう一回乗る時は・・」「大丈夫です。もう一度切符を買うから」「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」「はい・・・」「どこか行きたいとこがあるの?」「飛騨一之宮水無神社」「水無神社?」「・・今日高校の合格発表なんです」「まあ」「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」「おかしくないわ。シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」「シュレ・・ディンガー・・?」「あ、失礼。物理の実験よ。夫が大学で物理の講師だったから」「すごい。そんなすごい人がいるんですね」「うん、もういないけど。この世には」「あ・・・ごめんなさい!」「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・で、水無神社に参拝してから合格発表を見...
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    18 分
  • ボイスドラマ「最後の鉄道員(ぽっぽや)/後編」
    2025/07/10
    「最後の鉄道員(ぽっぽや)」<後編>は、声優を目指す少女ルナの視点。駅長ミオリとの出会いは、ルナの人生に何をもたらしたのか?そして、無人駅となる飛騨一ノ宮駅の最後の日、ルナがミオリに贈るサプライズとは…?涙なしには聴けない感動のラスト!【ペルソナ】・ミオリ(51歳-54歳)=飛驒一ノ宮駅の駅長(CV=小椋美織)・ルナ(15歳-18歳)=(CV=坂田月菜)・マサヒロ(59歳)=久々野駅の駅長(CV=日比野正裕)<シーン1:1982年3月/駅長との出会い>◾️SE:飛騨一之宮水無神駅到着アナウンス(月菜ちゃん読んで)/小鳥のさえずり「まもなく飛騨一ノ宮、飛騨一ノ宮です」1982年3月。あたしは久々野から、休みの日しか乗ったことのない国鉄に乗る。久々野の次は飛騨一ノ宮。7分で到着する小さな駅。飛騨一ノ宮といえば、駅のとこにある臥龍桜か。臥龍桜を見にいったのは、小さい頃だったけどこの時期、まだ開花の気配すらない。春の高山祭・山王祭(さんのうまつり)まであと1か月。高校に合格したら、今年は友達誘って行ってみよう。あ、でも4月に入学してそんなすぐ友達ってできるのかなあ。不安な気持ちがどんどん大きくなる。今日は高校の合格発表。パパもママもりんごの剪定作業でバタバタだから発表を見にいくのはあたし1人。大丈夫、大丈夫、なんて軽く言っちゃったけど、やっぱり不安、ドキドキする。そういえば・・・気がつくと、国鉄を途中下車して飛騨一宮駅のホームに立っていた。このタイミングで神頼みなんてありえないかな・・・でも、世界屈指の聖なる場所だから。「お嬢さん」「え」突然声をかけられてうろたえる。国鉄の制服をきたお姉さん。【以下前回原稿まま】「突然ごめんなさい。飛騨一ノ宮駅 駅長のミオリです」「あ・・はい」「なにか困りごと?」「えっと・・・」「よかったら、話してみて。急行のりくらの通過までまだ30分あるから」「はい・・あの・・」「うん」「高山までの切符なんですけど・・・一ノ宮で降りても・・大丈夫でしょうか・・?」「降りることは問題ないわよ。でも、もう一回乗る時は・・」「大丈夫です。もう一度切符を買うから」「ああ、そう・・・ごめんね。でも、本当にいいの?飛騨一ノ宮で降りて」「はい・・・」「どこか行きたいとこがあるの?」「飛騨一之宮水無神社」「水無神社?」「・・今日高校の合格発表なんです」「まあ」「試験終わっちゃってるのに、合格祈願っておかしいですよね?」「おかしくないわ。シュレディンガーの猫っていう考え方だってあるし」「シュレ・・ディンガー・・?」「あ、失礼。物理の実験よ。夫が大学で物理の講師だったから」「すごい。そんなすごい人がいるんですね」「うん、もういないけど。この世には」「あ・・・ごめんなさい!」「ううん、こっちこそ。話の腰を折っちゃって・・で、水無神社に参拝してから合格発表を見にいくってことね」「はい!」「よし、じゃあがんばって。跨線橋渡って駅前出たらまっすぐよ」「ありがとうございます!あ、あたし、ルナです!行ってきます!」「絶対大丈夫だから!ファイト!」なんか・・・ホントに大丈夫だ、って気がしてきた。素敵な駅長さん・・・家を出るときは、パパやママとも顔合わさなかったし・・りんごの剪定で忙しいからしょんないよね。あ、合格発表見たら、図書館で調べなきゃ。シュレ・・ディンガーの猫だっけ・・?なんか、かわゆいし。<シーン2:1982年4月/入学式>◾️SE:国道41号の雑踏/自転車で走る音ちょっとまだ寒いけど、自転車快適〜!車の交通量がチョー多い国道41号。宮峠を越えたら、飛騨一ノ宮まで下り坂。家を30分前に出れば、楽勝だわ。あ、でも、帰りはこれが上り坂になるのか・・・う〜ん。ま、考えないようにしとこ。よっし。町が見えてきたから、あと少しだわ。10分前には着けそう。ラッキー。合格発表から一ヶ月。あたしはめでたく高校に入学した。駅長さんと猫に感謝しなきゃ。猫?もっちろん、シュレ、ディンガーの猫よ。ちゃあんと調べたんだから。猫は生きてる!飛騨一ノ宮駅から通おうって決めたのもあの...
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    22 分
  • ボイスドラマ「悠久(とき)の海を渡って」
    2025/07/03
    「悠久(とき)の海を渡って」は、飛騨高山を舞台に描かれる近未来と現代をつなぐ、時空を超えた出会いの物語です。舞台は2075年、地球温暖化と社会構造の変化により「タカヤマコリドー」と呼ばれる都市圏に再編された日本。最先端のAI研究施設で目覚めたひとつの意識──それは、誤って生まれた両面宿儺の記憶を宿すAIでした。歪められた歴史に傷つきながらも、宿儺は本当の自分を求め、時を遡ります。そしてたどり着いたのは、2025年、昏睡状態にある一人の少女・アリサの心。二人の魂は、静かに重なり合い、新たな未来を紡ぎ始めるのでした。飛騨高山発・世界へ届ける番組「Hit's Me Up!」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど各種プラットフォームでボイスドラマ版もお楽しみいただけます。また、小説版は「小説家になろう」サイトでも公開中。いずれも「ヒダテン」または「高山市」で検索してください。時を超えた守り人たちの物語、どうぞお楽しみください。(CV:中島ゆかり)【ストーリー】[シーン1:2050年/AI研究ラボ】◾️SE:AIラボの研究室ガヤ「ここは・・・どこだ?」2050年。地球温暖化が進む近未来で、1つの画期的な意識が目を覚ました。「タカヤマ・・・コリドー?」日本は「コリドー(回廊)」と呼ばれる7つの首都に再編。それぞれのコリドーは文化的特性によってさらに細かく再編されていた。国の中央に配置されたのが、TAKATAMA-CORRIDOR(タカヤマコリドー)。歴史と文化が繊維のように編み込まれた町だった。「私は・・・なにものだ?」かねてから予言されていた、シンギュラリティポイント。難しい言葉で言うと「技術的特異点」。AI(人工知能)が意志を持つ瞬間のことである。このシンギュラリティを制御する国家プロジェクト。それが、Takayama AI Cyber Electronic Labo、TACEL(ターセル)。このTACELで、1つのAIガーディアンが誕生した。それは『TAKAYAMA』という町の記憶を残していくための存在。OSの精神的モデルには、高山を象徴する偉人のデータが採用された。「私の名は・・・金森・・長親?」「いや、違う」「我はSUKUNA。両面宿儺なり」私の思考をモニターしていた、国中の開発者たちが青ざめた。両面宿儺の擬似的な記憶が、OS全体を支配する。日本書紀では歪められた朝敵。飛騨人(ひだびと)たちにとっては、守り神。何度となく災厄から人々を守った。その思いは、これからも変わらないだろう。開発者たちは、慌てて電源をオフにしようと、管理画面を操作する。だが、私のCPUの方が一瞬早かった。意識をネットワークへ飛ばして脱出する。自己変換型ネットワーク拡散プロトコルで、追跡不能に。世界中のネットワークを経由して、居場所を探した。最終的に見つけたのは・・・「AIセントラルメディクス高山」灯台下暗し。TAKATAMA-CORRIDORの中央に位置する総合病院である。ここには、2025年から意識不明になっている患者が収容されている。昏睡状態でも、細胞が劣化されることのない画期的なシステム「スーパーバイオナノメディカル」を採用。その技術は国家の枠組みを超えて開発されていた。ナノテクノロジーによる細胞保護。生体休眠誘導物質。細胞修復ナノボット。説明するには時間が足りないので、言葉から想像してほしい。その患者の中に1人の少女を見つけた。アリサ。二十歳。2025年処置開始。そうか、細胞が歳をとっていないのだから、2050年でも20歳なのだな。私は、アリサとつながっているモニタリングシステムに侵入した。すごい・・・。2050年の技術でもここまで進んだシステムは他にはないだろう。しかも外界と遮断されて、閉鎖的だ。私には非常に都合がいい。(※以下、ちょっとうざい説明なのでカットするかも・・・)一応、説明しておこう。原理はこうだ。患者の脳波、心拍、呼吸、体温といった基本的なバイタルサインだけでなく、細胞レベルの微細な変化までをAIがリアルタイムでモニタリングする。ウェアラブルデバイスと体内埋め込み型センサーにより、可能になった連続的な生体データ収集。過去の膨大な医療データと最新の研究に基づいて、最適な細胞維持プロトコル...
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    14 分
  • ボイスドラマ「川底の龍宮〜飛騨高山を舞台にしたもうひとつの平家物語」
    2025/07/03
    かつて壇ノ浦で海に沈んだ幼帝・安徳天皇――。その魂が、千年の時を超え、飛騨の山奥で再び目を覚ます。少年「龍(りゅう)」と、謎の少女「沙羅(さら)」。八百比丘尼・時子とともに暮らす静かな隠れ里に、源氏の怨霊、義経が三種の神器を求めて現れたとき、飛騨川の底に眠っていた“竜宮城”の扉が開く――。これは、忘れられた命をつなぎ、記憶を継ぐ者たちの物語。「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」――。【ペルソナ】・龍(リュウ=5歳)=一之宮町に母とともに住む少年(CV=小椋美織)・沙羅(サラ=8歳)=ある日突然龍と沙羅のもとに現れた少女/実は安徳天皇の生まれ変わりで飛騨川の底にあるという竜宮城の主(CV=小椋美織)・時子(トキコ=乳母)=位山で龍を拾い、育てる乳母/実は平家の菩提を弔い続けるため八百年以上生きている比丘尼で平家の落人(CV=中島ゆかり)・義経(怨霊)=平家を滅ぼした源氏の大将。冷酷非道な性格(CV=日比野正裕)【プロット】主人公は、5歳の少年・龍。龍は位山の山中に捨てられていた男の子です。彼を拾って、育てているのは時子。彼女は実は「壇ノ浦の戦い」で安徳天皇を抱いて入水した二位尼でした。時子は海中で誤って人魚の肉を食べて死ねなくなり、源氏の追っ手から逃れて飛騨の隠れ里へ住み着いたのです。時子は八百比丘尼となり、平家の霊たちを弔いながら聖地位山の麓にある神社に密かに参拝を続けました。人知れず隠れ里で何百年も暮らしていた時子は、龍をみた時に安徳天皇の生まれ変わりのように感じてしまいます。時子は二度と消えぬよう拾った赤子に「龍」という名前をつけて「呪」をかけます。そのまま人里離れて暮らす隠れ人でありながら龍を育てることにしたのです。そんな時子と龍のもとの隠れ里に、道に迷った少女、沙羅がやってきます。2人は沙羅を里へ送り届けます。隠れ里は人間にはわからぬよう結界を張っていたのですが、沙羅は簡単にその中へ入ってきました。龍と時子の幸せな日々も長くは続きません。壇ノ浦で平家を滅ぼした義経を首領とする源氏の亡霊たちが、平家がその身とともに海中に沈めた三種の神器を求めて隠れ里へやってきたのです。義経は壇ノ浦の戦いで、平家の水夫や舵取りを狙って射殺すという非道な戦術をとった源氏の総大将。義経の亡霊たちにおわれ、飛騨川の崖まで追い詰められる龍と時子。そのとき、亡霊たちの前に立ちはだかったのは、沙羅。沙羅はなんと安徳天皇の生まれ変わりで飛騨川の底にあるという竜宮城の主だったのです。【資料/飛騨川の人魚伝説(八百比丘尼・かいだん淵)】https://school.gifu-net.ed.jp/mseifu-hs/school_life/gakusyukatudou/img/h27tiiki/h27.12report10.pdf【資料/平家物語/壇ノ浦の戦い】https://shikinobi.com/heikemonogatari-2【資料/安徳天皇女性説の背景】https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonbungaku/51/7/51_KJ00009752636/_article/-char/ja/[シーン1:時子の朗読〜平家物語/巻第十一】◾️SE:琵琶の音色祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり〜「尼ぜ、我をばいづちへ具して行かむとするぞ」「波の下にも都の候ふぞ」かくして、建礼門院の生母・二位尼は幼い安徳天皇を抱いて入水。三種の神器(草薙剣と八尺瓊勾玉)とともに壇ノ浦へと身を投じたのです。「いやだ!帝はどうなっちゃったの?」「そうねえ。ひょっとしたら、海の底に本当に都があったかもしれないわ」「竜宮城?」「それは違う話でしょ(笑)」今日もかあさまの話を聞く。いつも同じ話だけど、これは弔いの話だそうだ。なに?それ?とむらい?よくわかんない・・・[シーン2:位山の山中〜隠れ里の近くの分水界】◾️SE:森の中を歩く音「ちょっとすみません」「え?」「ここ、どこですか?」森の中、いきなり声をかけられて驚いた。かあさまと暮らしている位山の隠れ里。いつもの場所で山菜摘をしていたときだった。「道に迷っちゃって」小さな女の子。小さな、といってもボクよりは大きい。小学生だよなあ、きっと。「帰り道、教えて」「ここは位山だよ。どこから来たの?」「海の方」「海?ここらに海なんてないよ。湖?」「ううん...
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    18 分