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サマリー
あらすじ・解説
あなたはどんなジュースが好きですか? 埼玉県在住 関根 健一 先日友人と、ある映画の話題になりました。その映画は、無肥料無農薬の自然栽培で野菜を作っている隣町の農園を題材にしたドキュメンタリー映画でした。 その農園では従業員やパートスタッフに混じって、「研修生」と呼ばれる人たちが作業を手伝っています。近頃、自然栽培という言葉を耳にすることも増えてきましたが、まだ日本の野菜の流通量の0.1%にも満たないそうで、この新しい農法を学びに、全国各地からたくさんの人が研修生としてやってくるのです。 その中には、農家になるのが目的ではなく、仕事漬けの人生に疲れてしまい、「土に触れながら自分の人生を見つめ直したい」との理由で研修を受けに来る人もいて、そこで働く人の姿は実に多様です。その参加者たちに寄り添いながら、自らも一緒に成長していく農園経営者の姿に心を打たれた映画監督から、ドキュメンタリー映画を撮りたいと声があがったのです。 実は、この映画には私と長女も出演しています。というのも、映画の題材となった農園の経営者Aさんは、私の長女が通う特別支援学校の「現場実習」の受け入れをお願いした方で、その時にちょうど映画の撮影が入っていたのです。特別支援学校の現場実習とは、障害のある生徒たちが、職場や福祉作業所での体験を通じて、本人の適性や相性などを見極めることを目的にした制度です。障害の種類や程度にもよりますが、長女が通う学校では、高等部に上がると一つの現場に一週間ほど通って実習を行います。 一般企業への就労を目指す生徒は、受け入れてくれそうな企業に実習を受けに行くのですが、長女のように生活のほとんどの場面で介助が必要になる生徒は就労が難しいため、卒業後には生活介護事業所と呼ばれる福祉サービスに通うことが多いのです。そうしたサービスを提供する場所は地域でも限られているので、現場実習は多くの場合、卒業後に通う福祉施設の「お試し」のようになってしまいます。 しかし、在学中、5回に分けて延べ10カ所で行う現場実習のすべてを「卒業後に通えそうな施設」だけで考えるのは、可能性を狭めているようで、とてももったいないことではないかと感じていました。 そう感じるようになったきっかけは、まだ長女が小学校低学年の頃にさかのぼります。情報通信技術を使った障害児支援について研究されている、ある大学教授の講演を聴いた時のことでした。 その先生は、聴講に来ていた我々、障害のある子の保護者に向かってこう問いかけました。 「お子さんに、オレンジジュースとリンゴジュースどっちがいい?と聞いて、リンゴジュースと答えたら、この子はリンゴジュースが好きな子なんだ、と思っていませんか?」と。 多くの保護者がうなずく中で、先生はこう続けました。 「その子は、ぶどうジュースを飲んだ経験がありますか? グレープフルーツジュースを飲んだ経験がありますか? 障害のある子の選択肢は、支援する人が提示した物の中に限られてしまうことがほとんどです。失敗も含めて、自ら選び経験する場を与えてあげること。その子が本当に好きなものに出会えるかどうかは、支援者によるところが大きいのです」と。 これを聞いて、ハッとしました。それ以来、私たち夫婦は、長女の現在の「できる、できない」を基準にするのではなく、長女の「やりたい」ことを基準に考え、「できた、できなかった」という体験に触れさせることで、自ら選択し、決定する力をつけてあげられるように心がけてきました。 話は戻って、長女が高等部に上がり、現場実習のあり方に私が疑問を感じ始めていた時のことです。 Aさんの農園で障害のある子供たちの農業体験の企画があり、そこでアドバイスをして欲しいと依頼され、参加しました。その時、障害児の親御さんたちの細かな要望に対して、まずは「できること」を前提に前向きに話すAさんの姿を見ていて、「この農園なら現場実習をお願いできるんじゃないか」と直感しました。そこで、「娘の現場実習を受け入れてくれませんか?」とお願...