
「川辺川ダム」再浮上――5年目の節目に考える治水と命のあり方
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2020年7月4日未明、熊本県南部・球磨地方を襲った記録的な豪雨により、球磨川流域では50名の命が奪われ、住宅やインフラにも甚大な被害が及んだ。あれから間もなく5年。地域住民は生活再建や事業の立て直しに懸命に取り組んできた。
そんな中、「川辺川ダム建設」が静かに、しかし着実に再び動き出している。元RKKアナウンサーであり、かつてから川辺川ダム問題に関心を寄せてきた宮脇利充さんは、「なぜ今、ダム建設が再び進んでいるのか」「果たしてその必要性は本当にあるのか」と問いかける。
🔶かつて白紙撤回されたはずのダム計画が…
川辺川ダム建設計画は、2008年に当時の熊本県知事が「白紙撤回」を表明し、実質的に中止された。しかし2020年の水害を受けて、今度は「流水型(穴あき型)ダム」として再び構想が浮上した。これは、治水に特化し、通常は水をためず、豪雨時のみ水量を調整するという形式だ。
2027年度には本体基礎の掘削工事に着手し、2035年の完成を目指すという。完成すれば日本最大級、あるいは「最後の大型ダム」となる可能性もある。
しかし、この計画には大きな疑問が残る。
🔶「同じ豪雨が再来しても、ダムでは救えない」――市民調査が突きつけた事実
市民グループや専門家による調査では、2020年の豪雨で亡くなった方々の多くが、球磨川本流ではなく支流の氾濫や山腹崩壊による土砂災害によって命を落としていたことが判明している。
また、豪雨の降雨域は川辺川上流とは大きく離れており、仮にそこにダムが存在していたとしても、「命は救えなかった可能性が高い」と指摘されている。
それにもかかわらず、国土交通省と熊本県はこれらの調査結果に十分な応答を示さないまま、ダム建設を推し進めているのが現状だ。
🔶「手続きの裏側」で進んだ国の戦略
さらに注目すべきは、国交省が旧計画(多目的ダム)の廃止手続きを正式に行わなかったことだ。白紙撤回後も10年以上計画を「寝かせ」、新たなダムを「継続案件」と位置づけることで、環境アセスメント(影響評価)を回避。結果として、スピーディに新計画を推進できる道筋をつけた。
これにより2023年には土地収用法に基づく「事業認定申請」まで進んでおり、建設に反対する地権者の意向にかかわらず、土地の使用が可能となる段階にまで来ている。
🔶「声を上げづらくなった」地域の空気感
2008年の白紙撤回時には県内外で大きな議論と盛り上がりを見せた川辺川ダム問題。しかし2020年以降、報道も少なく、地域の関心も盛り上がっているとは言いがたい。
その背景には、国交省が「ダムがあれば人吉市周辺の浸水範囲は6割減少した」と発表したことがある。多くのメディアはこれをそのまま報じ、「ダムがあれば救われた命があったかもしれない」という空気が広まった。
「声を上げづらくなった」というのは、かつて環境保全を訴えていた住民や団体の率直な気持ちだ。自分たちの行動が、あの被害と関係していたのでは――という悔恨のようなものが、声を押し殺している。
🔶今、本当に必要なのは何か?
「穴あきダム」であっても、川の自然環境は大きく変わる。山の崩壊や支流の氾濫が主因であることがわかっている今、約4900億円とも言われる巨額の予算を「山林の再生」や「地域の防災力強化」に投じる方が、よほど効果的ではないか――。宮脇さんはそう訴える。
「川辺川ダム建設が進む今こそ、再び私たち一人ひとりが考えるべき時です。『本当に命を守る方法とは何か』を、冷静に、丁寧に、向き合っていく必要があるのではないでしょうか」
ゲスト:宮脇利充さん(元RKKアナウンサー)
聞き手:江上浩子